「お風呂でスマホを落としたけど、すぐに拾ったら普通に動いた。よかった、セーフだ!」
そんなふうに胸をなでおろしていませんか?
こんにちは、元家電販売員の島 翔一です。お店でも「水没したけど乾かしたら直った」と喜んでいたお客様が、1週間後に「急に電源が入らなくなった」と青ざめて来店されるケースを、私は数え切れないほど見てきました。
結論から言いますね。今、普通に使えているのは「セーフ」ではありません。「時限爆弾のスイッチが入った」状態である可能性が非常に高いです。
もちろん、すぐに修理に出すのがベストです。でも、「動いているのに数万円の修理代は払いたくない」「ショップに行く時間がない」というのが本音ですよね。
そこでこの記事では、修理に出すのをためらっているあなたのために、元店員の私が「スマホが突然死するまでの猶予期間に、データだけは確実に守り抜くための生存・撤退マニュアル」を伝授します。
最悪の事態になっても思い出の写真だけは残せるよう、今すぐ対策を始めましょう。
なぜ「普通に使える」のか?水没スマホの内部で起きている「3つの真実」
「防水スマホだし、ちょっと濡れたくらいなら大丈夫でしょ」と思っている方も多いかもしれません。しかし、プロの視点で見ると、水没したスマホの内部では恐ろしいことが起きています。
なぜ今動いているのか、そしてこれから何が起きるのか。その理由は主に3つあります。
1. 運良く「重要回路」を避けただけ
スマホの中には無数の回路が走っています。今動いているのは、侵入した水がたまたま「電源」や「画面表示」に関わる重要な回路に達していないか、ショートするギリギリ手前で止まっているだけです。
スマホを傾けたり、持ち歩いたりする振動で、内部の水滴が移動し、次の瞬間に重要回路に触れてショートする(電源が落ちる)リスクと常に隣り合わせの状態です。
2. 「イオンマイグレーション」による腐食の進行
これが「時限爆弾」の正体です。水(特に水道水やお風呂のお湯)には、ミネラルなどの不純物が含まれています。
この不純物が付着した基板に電気が流れると、化学反応(電気分解)が起き、金属が徐々に溶け出して「サビ」や「腐食」が発生します。これを専門用語で「イオンマイグレーション」と呼びます。
腐食は数時間で終わるものではなく、数日〜数週間かけてじわじわと進行し、ある日突然回路を断線させます。「1週間後に壊れる」ことが多いのはこのためです。
3. 防水パッキンを突破する「結露」の恐怖
「IP68」などの防水性能を持っていても、お風呂での使用は非常に危険です。なぜなら、防水パッキンは「液体」は防げても、「気体(水蒸気)」は防げないからです。
お風呂の温かい蒸気が内部に入り込み、外気で冷やされると、スマホの内部で「結露」が発生します。外側がどれだけ乾いていても、内側から水没している状態になるのです。
本当に無事かチェック!自宅でできる「水没トリアージ(重症度判定)」
「じゃあ、私のスマホはもう手遅れなの?」と不安になりますよね。まずは落ち着いて、現状の危険度を客観的にチェックしてみましょう。
iPhoneなどの多くのスマホには、水没したかどうかを判定する「LCI(液体侵入インジケータ)」というマークが隠されています。
LCI(水没マーク)の確認方法
iPhoneの場合、多くの機種でSIMカードトレイの奥にLCIがあります。
- 部屋を明るくするか、ライトを用意します。
- 本体側面のSIMトレイを、ピンを使って引き抜きます。
- トレイが入っていた穴の中を覗き込みます。
以下の表は、スマホでは横にスクロールできます。
| 判定 | マークの色 | 状態と意味 |
|---|---|---|
| セーフ | 白 または 銀 | 内部の判定シールまでは水が達していません。ただし、結露などの可能性は残ります。 |
| アウト | 赤 | 内部浸水が確定しています。Appleの保証対象外となり、いつ壊れてもおかしくない危険な状態です。 |
その他の危険サイン
LCIが白くても、以下の症状がある場合は「内部水没」の可能性が高いです。
- カメラレンズの曇り: 内側から結露しています。内部湿度が飽和している証拠です。
- Face IDが使えない: Face IDのパーツは水に非常に弱いため、最初に壊れることが多い箇所です。
- スピーカーの音割れ: 水が膜に付着しているか、部品が損傷しています。
修理に出さないなら絶対守って!データ消失を防ぐ「生存・撤退マニュアル」
もしLCIが赤くなっていたり、不調を感じたりしていても、「どうしても今は修理に出せない」という事情があるかもしれません。
そんな方が、最悪の事態(データ消失)だけは回避するために、今すぐ実行すべき「生存・撤退マニュアル」をお伝えします。
鉄則1:有線充電(Lightning/USB-C)は絶対にしない
これが最も重要です。濡れている充電ポートにケーブルを挿して電気を流す行為は、自らショートさせてトドメを刺す「自殺行為」です。
ポートが乾いているように見えても、奥の端子が腐食している可能性があります。有線での充電や、PCへの接続(iTunesバックアップ)は諦めてください。
鉄則2:MagSafe(ワイヤレス充電)を活用する
「じゃあどうやって充電するの?」と思いますよね。ここで役立つのが「MagSafe」や「Qi(チー)」などのワイヤレス充電です。
ワイヤレス充電なら、腐食のリスクがある充電ポートを使わずに、安全に電力を供給できます。本体の背面が乾いていることを確認してから、ワイヤレス充電器に乗せてください。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 有線がダメなら、ワイヤレスで生き延びてください。
なぜなら、水没故障の多くは「充電した瞬間」に起きます。ポートがショートして基板が焼けると、データ復旧はプロでも困難になります。ワイヤレス充電は、そんな危機的状況における唯一の「安全な生命維持ルート」になり得るのです。
鉄則3:クラウドへ即時退避する
充電を確保したら、PCを使わずにWi-Fi経由でデータをクラウドに逃がします。
- 写真・動画: 「Googleフォト」や「iCloud写真」にバックアップ。
- 連絡先・メモ: iCloudやGoogleアカウント同期をオンにする。
- LINE: アプリ内の設定から「トークのバックアップ」を実行する。
このバックアップ作業が完了するまでは、絶対に電源を切らないでください。一度電源を切ると、腐食の影響で二度と起動しなくなる(再起動に失敗する)リスクがあるからです。
よくある質問(FAQ)
最後に、水没した際によくある間違いについてお答えします。
Q. ドライヤーで乾かせば直りますか?
絶対にやめてください。ドライヤーの熱風は、精密部品を変形させたり、バッテリーを過熱させて発火させる危険があります。また、風圧で水を奥へと押し込んでしまう可能性もあります。
Q. ジップロックに乾燥剤と一緒に入れるのは効果ありますか?
気休め程度ですが、やらないよりはマシです。ただし、内部に入り込んだ水分を完全に抜くには数日かかります。その間に腐食が進むこともあるので、過信は禁物です。行う場合は必ず電源を切ってからにしましょう。
Q. スマホを振って水を出すのはどうですか?
NGです。振ることで、まだ濡れていない部分にまで水滴が飛び散り、被害を拡大させる恐れがあります。タオルで優しく拭く程度に留めてください。
まとめ:普通に使える「今」がラストチャンス
水没しても普通に使えている今の状態は、奇跡的な「猶予期間」だと思ってください。
明日、急に画面が真っ暗になるかもしれません。その時に「あの時バックアップしておけばよかった」と後悔しないために、今すぐ行動してください。
【今すぐやるべきこと】
- 有線ケーブルは絶対に挿さない。
- MagSafe(ワイヤレス充電)を準備する。
- Wi-Fiにつないで、写真とLINEだけでもバックアップを取る。
この記事を読みながら、バックグラウンドでバックアップは進んでいますか? まだなら今すぐ設定画面を開いてください。それが、あなたの大切な思い出を守る唯一の方法です。
